日本酒と健康

翌日すっきり、ときどき水

水がアルコール包み、胃を守る
翌日が心配で、心ゆくまでお酒を楽しめない――。そんな人にぜひ試してほしいのが、「和らぎ水(日本酒ときどき水)」。ここではアルコールと水の不思議な関係を紹介します。

水とアルコール分子の構造

水環境科学研究所代表の松井健一氏は「アルコール分子は水分子で保護されていると、身体にやさしい」と考え、両者の関係について研究を続けてきました。水は水分子が集まったものですが、絶えず動き回り、構造は変化し続けています(「水の液体構造」と呼びます)。そこにアルコール分子が飛び込むと、多くの分子が引きつけられて動きが鈍くなるという現象が起こりますが、日本酒に含まれるタンパク質やエキス分の周囲でも同じことが起こっています。

ところで、純粋アルコールに水を加えると、合わせた体積にならずに少し縮みますが、これは水の液体構造が「隙間だらけ」であることが原因です。隙間に水分子は入り込めませんが、アルコール分子の一部、つまり疎水性のエチル基の部分が潜り込めるため、体積の一部が消えてしまうという現象が起こるのです=右図参照。これは、アルコール濃度でいえば約20度、分子の世界でみるとアルコール分子1個が水分子約12個に囲まれたときに最も大きな割合になることがわかっています。日本酒の原酒の度数はまさにこの付近にあり、これを超えることがないのは、酵母が発酵活動をやめてしまうためなのです。これは、アルコール分子を取り囲む水分子が不足してアルコール分子が裸になり始めると、それが周囲から強く水分子を奪おうとし、酵母自体の命が危なくなってしまうため。しかし、水分子は多ければいいというものでなく、水分子が増えてグルコースが薄まると、それを食べてアルコールに変える酵母の活動も鈍ります。多すぎず少なすぎず、無駄なく巧みに酵母に働いてもらう必要があるのです。

身体を水不足にしない

松井氏は「杜氏たちは、水分子の巧みな使い方によって他に類を見ない高濃度の酒を造り上げてきた」と説明します。しかしそれに比べ、日本酒を飲むときには水への関心が薄いのが現状です。
先に、「アルコール分子は水分子で保護されていると身体にやさしい」と説明しました。水分子が不足すると、剥き出しになったアルコール分子が胃壁を荒らしてしまいます。しかし、荒らさないようにと肴を摂りすぎると、今度はそこに含まれるタンパク質やアミノ酸、塩分などが水分子を強く引きつけてしまうのです。飲んだ翌朝にひどく喉が渇くというのは、こういった理由で体内が水不足になっているからなのです。
そこで習慣にしてほしいのが「和らぎ水(日本酒ときどき水)」。ウイスキーを飲むときのチェイサーの要領で、お酒の横に冷水を入れたグラスを用意してください。蔵元が販売する「仕込み水」を試すのもよいでしょう。お酒を飲んだら、その倍量の水を飲む。交互に飲めばペースも自然と落ち着きますから、飲み過ぎを防ぐことができます。また、水が舌の感覚をリセットしてくれ、おいしく飲み続けることができるのです。そして十分な睡眠時間がとれる範囲で切り上げれば、翌日もすっきりと目が覚めます。日本酒をおいしく楽しむ秘訣の「合間に水」を、ぜひ試してみてください。

資料提供:日本酒造組合中央会
記事は醸造産業新聞社発行『酒販ニュース』2007.8.1~2008.3.1に「50にして日本酒を知る」シリーズで掲載されたものです。