<歌に、威勢のいい神輿のかけ声がかぶさり、やがて消えてガラガラッと、引き戸が開く(以後、祭り囃子の音、遠ざかったり、近づいたりしながら、物語の最後まで続く)>
祐一:(雪崩こむように)やー、終わった!終わった!
昭彦:(同じく)昼から神輿かついで、もう膝ガクガクだよ。
洋介:(同じく)あ、文子ちゃん!お酒、お酒!
文子:ちょっと待ってて。酒屋さんから酒樽いただいてるから。
洋介:お、うれしいねえ!なら、景気よく鏡開きといこう!ほら、そこの小槌もって。じゃ、いいか・・・・せーの!
<酒樽のフタが割れる>
祐一:おー、いい香りだな!
洋介:文子ちゃん、柄杓ちょうだい!それと升三つ!
文子:(笑いながら)はいはい、本当にせわしいんだから。
洋介:では、俺たち神輿の会の、今後ますますの繁栄を祈って。三人で かんぱーい!
祐一:・・・・あー、うまい!
洋介:(重ねて)はらわたに、しみわたるぜ!
昭彦:(重ねて)まったく、こたえられないな!
洋介:神輿で回るとさ、ふるまい酒だしてくれる店もあるんだけど、俺は我慢したぜ。
祐一:俺もだよ。でないと、この休憩所で呑む楽しみがなくなる。
洋介:なんたって文子ちゃんの顔拝みながら呑むのが最高さ。
文子:まあ、お上手ね。はい、酒の肴におでん作っておいたわよ。
洋介:お、こいつはうまそうだ!
文子:でも、あんたたちの神輿の会も、よく続いてるわよね。
昭彦:始めたのが二十代後半だから、かれこれ四半世紀だな。
祐一:最初は大変だったよ。神輿があんなに重たいとは夢にも思わなかった。
洋介:みんなヘッピリ腰でさ、肩の皮がすりむけて痛いの何のって。
文子:だけど、何だって自分たちで始めようとしたの?神輿でも山車でも、この町には古くからの会がいくらでもあったでしょうに。
洋介:そういうのは大体、口うるさい年寄りが牛耳ってるからな。生意気盛りの俺たちには面白くなかったのさ。
祐一:俺は別に元からある会に入っても良かったのに、こいつが人に指図されるの大嫌いでさ。どうせなら俺たちで新しくやろうって。
昭彦:いや、理由はそれだけじゃなかったよ。ほら、あの頃の僕らってさ、自分で勝手に思い描いてた夢に挫折して、みんな東京から戻ってきてた訳じゃないか。それで、これからは生まれ育ったこの町で生きてくしかないんだって事を、何とか自分に納得させようと・・・・。
祐一:(重ねて)そうだった、そうだった!挫折した者同士連帯して、なおかつ俺たちと故郷を結びつけるもんを探してたんだよね。
洋介:へー、そんな理由あったなんて、ちっとも知らなかった。俺はただ神輿かついで汗かいたら、酒がうまいだろうと・・・・。
祐一:(笑って)お前だけだって、能天気に何も考えてなかったのは。
<四人の屈託のない笑い声>
<文子以外は酒がまわって、ほろ酔い気分で話す>
文子:だけど、あんたたち、仲いいわね。いつ頃からの付き合いなの?
洋介:小学校ン時からずっとさ。お互い家が近所でね。
文子:さっき、夢破れて東京から戻ったとかって・・・・その夢ってのは何だったの?
洋介:おいおい、よしてくれよ。古傷つつくのは。
祐一:いいじゃないか、今さら別に。でも、こいつと違って、ちゃんと自分の夢を実現した奴もいるぜ。
祐一:そうそう。東京で個展開いたり、何とかって賞とったり。
昭彦:ちっとも金にはなってないがね。生活のため絵画教室なんかもしてるしさ。
祐一:それでも何だかんだ言って、一人前の絵描きとして暮らしてんだから偉いよ。絵だけで食ってる人間なんて、そうはいないぜ。
洋介:俺なんか役者になりたくて東京に出たんだけど、三年で諦めた。バイトしながらの下積み生活に耐えられなくてさ。
昭彦:でも今だって勤めの合間に、地元で舞台に立ってんだろ。
洋介:ああ、素人芝居だけどな。
祐一:高校ン時、お前らが羨ましかったよ。俺なんか何の夢もなかった。生まれた時から、店を継ぐもんと決められてたからな。
洋介:町で一番でかい酒屋の長男だもの仕方ないさ。
祐一:せめて大学は地元を離れようと東京に行ったんだが、結局、何も見つけられずに帰ってきた。情け無い話さ。
昭彦:代々続いた店を、ちゃんと受け継いでやってるんだから、それでいいじゃないか。
洋介:そうそう、普通、三代目ってのが店つぶすんだぜ。
祐一:潰しもしないが、大きくもしていない。
洋介:俺はお前に感謝してるぜ。うまい日本酒の味ってのを教えてもらったもんな。大学ン時、よく店からいい酒を持ってきてもらってさ。
祐一:なに言ってやがる!お前がくすねてこいって、しつこく言うから・・・・後で親父にバレて大変だったんだぞ。
文子:(笑って)本当に仲良しね、あの世に行ってもつるんでそうだわ。
洋介:勿論そのつもりさ。先に行った奴が、残り二人分の席を空けといとくんだ。三人揃ったら、向こうで大宴会を・・・・。
昭彦:(笑って)相変わらず好き放題いう男だな。大体あの世に日本酒なんてあるのか?
祐一:それなら絶対あるって!そもそも日本酒のない世界を天国なんて呼べるか?酒屋の俺が言うんだから間違いない。
洋介:よかった!それ聞いて安心したよ。あの世でまた一緒に呑めるとなりゃ死ぬのも恐くねえや。
文子:だったら、その時は私もまぜてちょうだいね。
洋介:いいとも。では、我らの友情を育んでくれた日本酒に乾杯だ。ほら、文子ちゃんにも注いであげて・・・・用意はいいか、それでは!
四人で:日本酒に、かんぱーい!